なぜ「中身」より先に「箱」を作ってしまうのか
Web制作を受けていると、「なぜ、そこから作るのだろう?」と首を傾げたくなる相談に遭遇します。
たとえば、「国の補助金を使って、ビジネス系の動画配信サブスクサイトを作りたい」というご相談です。
そこで、まず聞きます。
「YouTubeチャンネルなどはお持ちですか?これまで動画を撮影・編集したことはありますか?」
「ありません」
「ネームバリューがあっても難しい世界だと思いますが、誰がその動画を見るのでしょうか?」
「知り合いの大学教授や専門家に依頼して、出演してもらう予定です」
さらに聞きます。
「撮影や編集は誰がやるのでしょうか?毎月いくらかかりますか?そして、会員が継続してお金を払いたいと思えるだけのコンテンツを、継続して作り続けられますか?」
こうして話を掘り下げていくと、途端に計画があやふやになります。
私は、いきなり有料の会員制サイトを作るのではなく、まずは無料でコンテンツを公開し、実際にどんなものが求められるのかを確かめることを勧めます。
そこで実際にどんなコンテンツが求められるのかを確かめる。そのうえで会員制の仕組みを考えればいい。
動画についても同じです。まずは「お金を払ってでも見たい」と思ってもらえる内容を無料のダイジェスト動画などで試し、反応を見ながら、1人の出演者から複数本の動画を効率よく撮影できる体制を整えていく。
つまり、先に作るべきなのはWebサイトという「箱」ではなく、その中身を継続的に生み出せる仕組みです。
これは動画に限った話ではありません。
会員ランクを設計する前に、書くべき「記事」がある
「補助金を使って、無料・有料・プレミアムの3段階会員制にし、限定記事を配信するサイトを作りたい」という相談を受けたこともあります。
このときも私は、「最初はすべて無料で公開すべきです」とお伝えしました。
記事を読むこと自体にもハードルがあります。ましてや、無料会員として登録してもらうことにもハードルがあります。
それなのに、最初から有料会員を想定する。
そこで私は、「お金を払ってでも読みたいと思える記事を、毎週・毎月、継続して書けるのでしょうか?」とお伝えしました。
しかし、構想は止まりません。
会員ランクが設計され、限定コンテンツの仕組みが作られ、サイトは立派に完成していきます。
それから約1年。
会員数は10人に満たず、肝心の記事もほとんど更新されていません。
これは、サイトの機能が足りなかったからでしょうか。
おそらく違います。
サイトを構築することはできます。
会員ランクを3段階に分けることもできます。
決済システムを組み込むこともできます。
しかし、「お金を払ってでも読みたい」と思ってもらえるコンテンツを生み出し続ける力は、システム構築とはまったく別の能力です。
そして、これは動画でも記事でも同じです。
箱は作れても、中身は自動的には生まれません。
補助金が「本来の順番」を狂わせる
もちろん、補助金や助成金自体が悪いわけではありません。
本来必要だったシステムやWebサイトの導入費用を軽減する手段としては、とても有効です。
ただ、「補助金が使えるから、何か作ろう」と順番が逆転してしまうことがあります。
本来、「事業戦略ありきのIT投資」であるべきものが、「予算消化ありきのシステム構築」になってしまうのです。
本来あるべき姿:
やりたい事業がある → 必要な仕組みがある → 補助金を活用する
危ういパターン:
補助金が出る → 制度に合わせた箱を作る → 中身はどうしよう?
制作会社が補助金案件を辞退することがあるのも、こうした事情があります。
システムを作ることはできます。
しかし、クライアントの代わりに、毎月動画を撮影したり、記事を書いたり、商品を売ったりすることはできません。
だからこそ、制作側から見ると、「その箱を作ったあと、誰が何をし続けるのですか?」という疑問が非常に重要になります。
作れることと、続けられることは別物
Webサイトやシステムは、事業そのものではありません。
あくまで事業を支える「器」です。
器をどれだけ立派に整えても、その中に継続的に入れられるものがなければ、公開した瞬間に「さて、何を入れようか」と立ち尽くすことになります。
大切なのは、何を作れるかではなく、何を作り続けられるか。
動画なら、継続して動画を生産できるのか。
記事なら、お金を払ってでも読みたいと思ってもらえる記事を書き続けられるのか。
ECなら、そもそも継続的に売れる商品と販売理由があるのか。
プラットフォームを作る前に、まずそこを考えるべきです。
「作れること」と「続けられること」は、まったくの別物です。
そしてWeb制作の現場では、その順番が逆になってしまった案件を、何度も目にします。
それでも、最後は「エンタメ」だと思います
では、継続的にコンテンツを生み出すためには、何が必要なのでしょうか。
もちろん、継続して作れる「仕組み」も必要です。
しかし、それだけではありません。
…と、ここまで色々と書いてきましたが、最後に身も蓋もないことを言います。
動画でも記事でも、結局のところ、大切なのはエンターテインメントだと思っています。
「楽しませたい」
「驚かせたい」
「笑わせたい」
「知らなかったことを教えたい」
そういう強いエネルギーを持っている人は、やっぱり強いです。
専門家だから成功するわけでもありません。
立派な肩書きがあるから読まれるわけでもありません。
「この人、何か面白いことをやりそうだな」と思わせる人には、人が集まります。
そして、もう一つ、私が「もしかしたら、いけるかもしれない」と思う目安があります。
Facebookの友達が5,000人以上いる人です。
もちろん、5,000人いれば成功するという話ではありません。
ただ、すでに自分の発信を受け取ってくれる人がたくさん存在するというのは、大きな強みです。
もし、まだそういう人がいないのであれば、すでに人を楽しませ、コンテンツを届けている人と一緒にやることをおすすめします。
そういう人と、まず「何を届けるのか」を考える。Webサイトを作るのは、その後です。


